新潟県両津市(現在の佐渡市)に60年前に生まれ、20年間過ごしました。
その後明治鍼灸大学(現在の明治国際医療大学)の一期生として入学しました。
この仕事を選んだのはずっとなりゆきと思っていましたが、振り返ってみるとそうなるように何かに導かれていたように感じます。
子供のころから医者が嫌いでした。特に痛いことをする歯医者が嫌いでした。
待合室で待っている間によく逃げ帰って家族や先生に叱られました。
そんな私でも心を許せる先生がいました。本間医院の本間先生です。
先生は太っていてちょっと外国人のような白熊みたいな大きな先生でした。
診察室にはマリア様の絵が飾ってありました。
腹痛を訴えてみてもらうと「そうか、ぽんぽん痛いのか?」と言って暖かな大きな手でおなかをさすってくれます。
不思議とそれで治ってしまいます。帰りにピンクの甘いシロップの飲み薬をもらって帰ります。それが楽しみでした。
本間先生は私にとってのゴッドハンドでした。
小学5年生の時、ブランコで遊んでいて転び、右ひじを打撲しました。
近くの接骨院に連れていかれマッサージをされました。毎回激痛で泣いていました。どれだけ通ったでしょうか。
一向に良くならないので親が新潟の病院に連れいきました。新潟へは船で渡らないといけません。
レントゲン検査の結果骨折していました。骨折なのに接骨院でマッサージをされ続けていたのです。
医師からは「このままでいたらひじが曲がらなくなる」とまで言われました。何回通ったでしょうか。
半年ほどかかったかもしれません。治療とリハビリの末に右肘は治りました。
しかし完全に曲がるまでにはいたりませんでした。今でも途中までしか曲がりません。
鍼灸師になりたくてなったわけではありません。 なったからには病気の人のチカラになりたいと思い一生懸命勉強し、施術しています。 子供時代のことを思い出すとこの道でよかったようです。
病院が嫌いです。痛いのも嫌いです。 人の役に立って喜んでもらいたい。間違った施術はしません。 もし見立てが違っているとわかったらすぐに専門医に紹介します。
こんなことを思うのは子供のころの体験があったからです。
鍼灸のチカラを身をもって感じた事件が3つあります。最初は鍼灸大学時代にそれは起こりました。
体育の時間にソフトボールをしていました。
センターを守っていた私のところにボールが転がってきたので、かがんで拾い上げたところ腰に激痛が走りました。
その場にへたり込んでしまいました。
クラスメイトが駆け寄ってきて担架に乗せられました。
テニスコートの女子に大笑いされたのは苦い経験です。
そのまま診療所に連れていかれて矢野忠教授に鍼をしてもらいました。
担架からベッドに移るのも痛みで脂汗を流しながらでないとできなかったのですが、先生の一本のはりで嘘のように立って歩けるようになりました。
その効果に驚き、私の進む道はこれしかないと確信しました。
アパートに帰ったところで鍼の効果が切れて寝たきりになってしまいました。完治まで数回施術を受け2週間かかりました。
ちょうどそのころ学園祭の副実行委員長を任されていました。 ところが委員長が失踪してしまい私が仕切らなければならなくなりました。 どうしたものか毎日気が気でありません。そんなときにぎっくり腰です。 結局役員はほかの人が担当してくれ、学園祭は私が寝たきりのうちに終わりました。
そして気づきました。ぎっくり腰の原因はストレスだったのです。
大学での学業はトップではありませんでしたが、10本の指には入っていました。15本かな?とにかく頑張りました。
そして金沢に来ました。財団法人東洋医学臨床研究所、多留淳文所長のご指導を仰ぐためです。 先生は漢方医ですが鍼灸治療の造詣が深くご自身でも鍼灸治療をされていました。
先生は主催する鍼灸若草塾で東洋医学と現代医学の融合という研究されておられ、私もその末席に連なることを許されました。 後年塾長にさせていただいたことは光栄でした。
鍼灸治療と勉強、毎日遅くまで頑張りました。 無理がたたりうつっぽくなったことがありました。そんな時、仲間にお灸をすえてもらいました。全身に十数カ所。 そんな体調の時は不思議とお灸が熱く感じません。気持ちよく感じます。 すえてもらってしばらくすると強烈な眠気が襲ってきました。帰宅して食事もとらずそのまま寝ました。 一回も起きることなく翌朝を迎えました。昨日までの倦怠感が嘘のようにありません。 「台風一過」というコトバがぴったりの心境です。すっきりしています。これが2回目の鍼灸のチカラを感じたときでした。
そして3度目は鍼灸なかだ治療院の開業準備の時でした。日本政策金融公庫に開業資金を申し込みに行く日の朝でした。 書類はしっかり準備しました。なんだか緊張していました。立ち上がった瞬間にぎっくり腰になりました。
痛みをこらえて書類提出と面接を終えた途端に「あれ?腰が楽」。鍼をしなくても楽になっていきました。 またしてもストレスが腰痛を起こしたのです。ストレスから解放されたとたんに痛みはなくなりました。
骨や神経の異常で痛みが起こるといわれています。 鍼灸師の立場であれば筋肉や筋膜の異常に加え、生活習慣のみだれやストレスの関与を考えます。 ストレスのない人はいないといいます。 ただ、からだに異常をきたしたり日常生活に支障をきたすようなストレスなら対処しなければなりません。
自身の経験や多くの臨床経験から鍼灸にはその力があると確信しています。そして健康を取り戻すには鍼灸だけではダメです。 患者さんご自身の努力も必要です。
あきらめず一緒に改善を目指しましょう。